

そんなわけで、高カロリー・高タンパク・高脂肪の食事を出し続けていたある日のことである。食糧の整理も一段落し、「今日は何を作ろうかなあ?」とガサゴソやっていたとき、ある袋が目に留まった。
袋を見ると「和風煮物野菜ミックス」と書いてあった。これが越冬中、煮物・酢豚・八宝菜等に大活躍してくれる、エースと名付けても過言ではない一品との出会いだった。

レンコン・にんじん・椎茸・里芋・ゴボウなどがボイルして冷凍され、にこやかに微笑んでいた。頭に光がともった。
「旨煮を作ろう。」
鶏肉をぶつ切りにして、たっぷり入れ「煮物ミックス」と炒め煮にすると、つややか&ボリュームたっぷりな煮物が出現した。冷や酒と共に食すると、隊員諸氏はそれぞれ故郷の煮物料理自慢をしながら、大量にしかもうれしそうに頬張ってくれた。
「うちの嫁の煮物がね・・・美味いんですよ~これも美味いけれど・・・」 うれしそうに話す彼の脳裏には、確かに家族が浮かんでいるのが、実感できた。

しかも鳴っていたBGMが吉幾三の「酔歌」とくれば、思いがけない「故郷を偲ぶ会」の実施でもあった。
冷凍食品のレシピなどももっと書きたかったのだが、残念ながら連載は今回で終わりである。また機会があればお会いしましょう。
ありがとうございました。


作家兼料理人
西村淳(にしむらじゅん)
海上保安学校を卒業し、巡視船勤務の海上保安官となる。そして二度の「南極観測隊」に参加。
一度目は「昭和基地」、二度目は「ドームふじ基地」で越冬する。隊員たちの食事まわりすべてのことを担当する「調理隊員」という肩書きの一方で、通信・雪上車、車両メンテナンス・観測気球打ち上げのサポート、氷サンプリングのサポート、チェーンソーマン、大工、ボイラーメンテナンス、野外観測旅行のナビゲーター、雪穴堀り、燃料輸送・・・など、氷点下の世界でさまざまな仕事をこなす。
巡視船の教官兼主任主計士として海猿のタマゴたちを教えたあと、2009年に退職。同年、自身のエッセーが『南極料理人』として映画化された。主演は、堺雅人。現在は、講演会、料理講習会、テレビ、ラジオ、執筆などで活躍中。著書に『面白南極料理人』『いい加減は良い加減 -南極料理人のレシピ&ひとりごと-』などがある。